地震や気候変動による自然災害、国家間の対立や紛争、サイバーテロ等により、企業を取り巻く環境は日々変化し不確実性を増しています。
また、「オペレーショナル・レジリエンス(業務の強靭性・復旧力)」の国際的な関心の高まりを受け、金融庁が「オペレーショナル・レジリエンス」確保に向けたガイドラインを公表するなど、企業の事業継続に係る取組みへのステークホルダーの関心や社会的な要請は、より一層高まっていると言えます。
「レジリエンスサーベイ2024(以下、本調査)」は、日本企業におけるレジリエンス(危機を乗り越えさらなる成長を遂げる企業の力)や事業継続計画(以下、BCP)への取組みや課題を明らかにし、今後の方向性を示すことを目的として実施しました。
本調査は、日本企業によるBCPへの取組みをサードパーティー管理やDX化、エマージングリスクなど多角的な観点で取りまとめたテーマ1と、オペレーショナル・レジリエンスへの取組みを調査したテーマ2から構成されます。
1.日本企業における事業継続計画(BCP)策定の現況
【事業中断の原因】
(2)BCPの策定
BCPを策定していると回答した企業は87.9%にのぼり、2014年と比較して10.9ポイントアップしました。BCPを策定していると回答した企業のうち、策定範囲について「本社および国内の全拠点」(45.5%)と回答した企業が最も多く、半数近くを占めました。「全社」と回答した企業は20%以下にとどまりました。
【BCPの策定範囲】
BCP策定の理由として、株主(15.2%)、サプライヤ(9.4%)等の外部ステークホルダーからの要求の高まりや、企業イメージ向上(8.5%)を理由とする企業が2014年と比較して増加しました。売上等の社内都合だけではなく、対外的な事業継続への責任意識の高まりをうかがうことができます。
【BCP策定理由の経年変化】
※年度別の回答割合の比較をするため、100%グラフに換算して集計しています。回答数(n数)は年度によって異なります。
(3)事業継続の推進体制
事業継続推進の最高責任者については、「社長」と回答する企業が多く60.8%を占めました。次いで「取締役」が13.6%、「執行役員」が11.4%となり、多くの企業において、経営層が事業継続の最高責任者として事業継続にコミットしていることがうかがえます。
事業継続推進の専任者を設置していない(0人)と回答した企業が63.8%で、兼任者の人数で最も多い回答が「1~2人」(42.5%)でした。多くの企業が事業継続に取り組む人員不足に悩まされており、少ない人数で他部署と兼務しながら事業継続に係る活動に取り組んでいることがわかります。
【事業継続推進の専任者および兼任者の人数】
BCPを策定する企業のうち、事業継続に関する委員会・会議体を設置する企業は67.5%を占め、開催頻度として最も多いのは「年に1回実施」(26.5%)でした。直近の年間売上高1,000億円以上の企業に限定した場合、「年に2~3回実施」(29.4%)が回答として最も多く、事業継続に関する委員会・会議体をより頻繁に実施していることがうかがえます。
【事業継続に関する委員会・会議体の開催頻度】
(4)事業継続マネジメント(BCM)
半数以上の企業でBCM推進を阻害する要因として認識されたのは「BCMに取り組む自社の人員が不足している」(54.7%)および「危機が多様化・複雑化しており、情報収集・環境変化への対応が困難である」(54.7%)でした。従来の地震や風水害等の自然災害やサイバー攻撃等に加え、地政学リスクや気候変動リスクにより、企業の事業継続対応が年々困難になっていることがうかがえます。
【BCM推進の阻害要因】 ※上位5位まで
(5)海外拠点BCP
77.6%の企業が海外拠点BCPの必要性を感じており、28.0%の企業は策定に着手しています。また、60.8%の企業では、グループとしての明確な指針はなく各社にてBCP策定・運用を任せているとの回答を得ました。
海外拠点BCPを策定する際の課題としては、61.4%の企業が「本社として、海外拠点のBCP策定に対してどこまで統括すべきか不明確」と回答しています。また、コミュニケーションラインが未策定であることや言語の壁に対して課題を感じている企業が多い傾向があることが見受けられます。
【海外拠点BCPの策定状況】
(6)BCPのDX化
46.8%の企業が、デジタルトランスフォーメーション(DX)化の必要性を感じながらも対応ができていません。DX化を阻害する要因としては、「適切な要件定義が難しい」(44.8%)、「導入にあたり、知見がない」(43.7%)といった理由が挙げられています。
【DX化の阻害要因】
(7)サードパーティのBCP策定
61.5%の企業が、サードパーティのBCP策定有無確認の必要性を感じているものの、対応ができていません。また、BCP策定有無をサードパーティの選定基準としている企業は40.5%にとどまりました。
【サードパーティのBCP策定状況】
取引先から自社がBCPに関する要請を受けたケースとしては、「BCP策定の有無についての回答」(54.5%)が最も多く、次に「BCPの提出」(13.8%)を求められる回答が見受けられました。取引先からの事業継続に関する取組みへの要請が高まっていることがうかがえます。
【取引先からのBCPに関する要請】
(8)エマージングリスク
「地政学リスク」「人権侵害リスク」をBCPで対応すべきリスクと認識する企業が60%を超える一方で、これらのリスクに対するBCPを策定している企業は10%前後にとどまります。また、各エマージングリスクへの対応必要性を感じていないと回答する企業も一定数みられます。「資材高騰・枯渇リスク」は事業継続に直接的に影響するリスクであるため、65.9%の企業が対応の必要性を認識しています。
【BCPで対応すべきと感じているリスク】
※リスク別の回答割合の比較をするため、100%グラフに換算して集計しています。回答数(n数)はリスクによって異なります。
2.日本企業におけるオペレーショナル・レジリエンスの取組みの現況
【オペレーショナル・レジリエンス推進の最高責任者および推進主管部門】
(2)オペレーショナル・レジリエンス整備状況の検証
オペレーショナル・レジリエンス整備状況の検証について、金融業界の55.0%、非金融業界の40.4%が「取り組んでいる」と回答しています。
また、金融業界ではオペレーショナル・レジリエンスの「整備状況について定期的に情報収集し可視化している」という回答が多く、非金融業界は「整備状況に不備がある場合には、必要に応じて見直しや追加的措置を講じている」という回答が多くなっています。
[補足]金融庁のガイドライン等では、経営層がステークホルダーに対してオペレーショナル・レジリエンス確保の説明責任を果たすために、整備状況を定期的に可視化し、社内・第三者双方の目線で検証・評価するとともに、継続的な改善を図っていくことが重要としています。
【オペレーショナル・レジリエンス整備状況の検証と方法】
(3)オペレーショナル・レジリエンス確保に向けた課題
オペレーショナル・レジリエンス確保に向けて認識されている課題として、金融業界・非金融業界ともに「耐性度の設定」「シナリオテスト」や「リスク管理文化の醸成」を挙げている企業の比率が比較的高くなっています。
特に、金融業界においては、「シナリオテスト」と回答した企業が多く、オペレーショナル・レジリエンス態勢整備のための基本動作のなかでも、より後続の動作に対して課題感を持っていることがうかがえます。
【オペレーショナル・レジリエンス確保に向けた課題】
(4)今後の対応計画
BCPの調査結果から、金融業界・非金融業界ともに多くの企業が「重要な業務の特定」に着手していることが確認できますが、それ以外にも「経営層への説明」「社内の啓蒙活動」「想定外の事象が発生したケースを想定した耐性度の評価」について、今後の取組みとして関心が寄せられていることを確認できます。
【オペレーショナル・レジリエンスに係る今後の対応計画】
本レポートのPDFでは、日本企業におけるBCP策定の現況およびオペレーショナル・レジリエンスの取組みの現況について、さらに詳細に考察しています。下記からダウンロードできますので、ご覧ください。
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